成分、元素組成

オーステナイト系ステンレスの特徴
代表鋼種には18-8ステンレス(18Cr-8Ni)ともいわれるSUS304があります。オーステナイト系のステンレスは、冷間加工だけで硬化し、熱処理を行っても硬化せずに、かわりに軟化します。このオーステナイト組織は、熱処理の状態では磁性はありませんが、冷間加工では少しの磁性を見せます。こうした加工後でも磁性がないものもあります。

500~800℃に加熱すると結晶粒界にクロム炭化物が析出してくるという欠点があり、粒界腐食(金属組織を構成する粒と粒の境界線から腐食していく)の原因となります。これを防ぐために、炭素量を減らしたり、チタンやニオブなどの安定化元素を添加して、クロムの代わりにこれらの物質と炭素を結び付けてクロム炭化物の生成を抑える方法があります。耐摩耗、耐食が必要な場合は、浸炭や窒化して用いることがあります。

Niを含有しているので、常温でもオーステナイトの組織が安定している材料で、またCrとNiの含有量が多いことから、耐食性、耐熱性に優れます。低温じん性にも優れます。応力腐食割れ感受性が高いという欠点については、添加元素により改良されている鋼種もあります。

耐食性、加工性、溶接性など他のステンレス鋼材種で最も優れますが、焼入硬化性がない為、強さや硬さの面では他種に劣る部分や欠点もあります。ただ総じて優れた性質を発揮するため、用途や利用領域が広いステンレスと言えます。添加元素のバリエーションも豊富で、多種多様なステンレスの種類があります

まとめると、

  • 一般に磁性はありません(非磁性)。
  • 焼入によって硬化しません。
  • 非酸化または還元性雰囲気の中で耐食性が悪くなる点を、Niを加えることによって改善したもので、ステンレス鋼材中オーステナイト系が最も優れています。
  • 固溶化熱処理状態では展延性に優れ、かつ降伏点も低いので高度の加工が可能です。
  • 加工硬化が著しいのでこの性質を利用してバネや強靭鋼としても使用できます。
  • 固溶化熱処理状態では非磁性ですが、強い(冷間)加工により弱い磁性をもつようになります。
  • 高延性、高靭性、冷間加工による高強度化が可能です。
  • 低温下でも衝撃値の劣化がないため、低温用材料として有用です。
  • 高温下での耐酸化性、高温強さに優れ、耐熱鋼としても使用できます。
     

マルテンサイト系ステンレスの特徴
マルテンサイトの最大の特徴は、他の鉄鋼材料のように熱処理(焼入れ)をすることができ、この焼入れによってマルテンサイト組織が生じて硬化させることができます。鉄鋼材料の多くは成分だけでなく、この熱処理によって変幻自在ともいえる多様な性質を持つことができます。すべての状態で磁性があります。代表的な鋼種として特徴は、「硬さ」と呼ばれるSUS410があります。

マルテンサイトの組織自体は、硬くて脆い性質をもちますが、焼き戻しによって強度や硬さをさらにあげることができます。この系統のステンレスは組織が変態するという特色があるため、熱処理によって硬化させて利用されています。代表的な鋼種として、13Crステンレス(13クロムステンレス)があります。

こうした性質から、高強度や高硬度が要求されるものや高温にさらされるものに使われたりします。耐食性についてはマルテンサイト系は他の系統よりも劣る傾向があります。これは炭素の含有量が抑えてあることと関係します。SUS403やブリネル硬さ500まで硬化させることができるとされるSUS420などこの系統のステンレスの際立った特徴は、「硬さ」です。ただ硬さとは、脆さとも表裏一体でもあります。硬く耐摩耗性に優れることから、刃物、工具、ノズル、タービンブレード、ブレーキディスク、などに使われます。

  • 室温での強さが大きいタイプのステンレスです。
  • 溶接性は比較的悪いといえます。
  • 耐食性はフェライト系、オーステナイト系よりも低くなります。

     

フェライト系ステンレスの特徴
フェライト系は熱処理を行ってもマルテンサイトのように硬化はしません。フェライト生成元素であるCr、Mo、Siなどが適度に調整されているため、高温下でもフェライトのまま存在します。つまり、焼きが入りません。またすべての状態で磁性があるため、磁石につきます。

このステンレス鋼材は、特定の温度下(475℃ぜい性)で「ぜい化現象」を起こすことで知られ、引っ張り強さや硬さが向上するかわりに、耐食性が劣化していきます。ぜい化(脆化)はこの場合、延性などが低下することを意味します。

代表的な鋼種として18Cr(俗に言う18クロムステンレス)と呼ばれるSUS430があります。一般にはマルテンサイトよりクロムの含有比率が高い鋼種です。耐食性はオーステナイトよりは劣りますが、マルテンサイトよりは高いです。溶接性もそこそこあります。また軟質で延性に富んだ材料でもあります。
フェライト系で特にクロム含有比率の高いSUS430系などは高温における耐酸化性に優れています。またオーステナイト系に比べて熱膨張係数が小さく、加熱冷却時の表面スケールの剥離も少ないとされます。フェライト系のステンレスの中には、Mo、Ti、Nb, Al, Siなどを添加することで耐食性や耐酸化性を改善したものもあります。

ニッケルを含まない鋼種のため、硫黄(S)を含むガスに対して耐高温腐食性が優れています。また、オーステナイト系の欠点でもある塩化物応力腐食割れが発生しないという利点があります。価格が安く、溶接性も悪くないので、800℃までの炉部品や化学設備にも利用されます。


SUS304
の特性と主な用途

SUS304(別名18Cr-8Ni、18クロムステンレス)はステンレス鋼材のうち、耐熱鋼として最も広く普及している鋼種の一つです。耐食性、溶接性、機械的性質が良好なことで知られます。
 

化学成分

SUS304の成分、組成(単位:%)

材料記号 C Si Mn P S Ni Cr Mo Cu N その他
SUS304 0.08以下 1.00以下 2.00以下 0.045以下 0.030以下 8.00~10.50 18.00~20.00 - - - -

機械的特性

材料記号 耐力
N/mm2
引張強さ
N/mm2
伸び(%) 硬さ
HBW HRBS又はHRBW HV
SUS304 205以上 520以上 40以上 187以下 90以下 200以下

 

SUS304Lの特性と主な用途
18Cr-9Ni-低C型の組成を持つタイプで、SUS304のうち、炭素の含有量を減らした極低炭素鋼です。耐粒界腐食性に優れ、溶接後熱処理できない部品類にも使われます。
 

化学成分
SUS304Lの成分、組成(単位:%)

材料記号 C Si Mn P S Ni Cr Mo Cu N その他
SUS304L 0.03以下 1.00以下 2.00以下 0.045以下 0.030以下 9.00~13.00 18.00~20.00 - - - -

機械的特性

材料記号 耐力
N/mm2
引張強さ
N/mm2
伸び(%) 硬さ
HBW HRBS又はHRBW HV
SUS304L 175以上 480以上 40以上 187以下 90以下 200以下

 

SUS304N2の特性と主な用途
主として18Cr-8Ni-N-Nbの成分を持ち、SUS304にNとNb(ニオブ)を添加して、延性の低下を抑えながら強度を高めたタイプのステンレス鋼材です。SUS304N1と同じ使われ方をします。

化学成分
SUS304N2の成分、組成(単位:%)

材料記号 C Si Mn P S Ni Cr Mo Cu N その他
SUS304N2 0.08以下 1.00以下 2.50以下 0.045以下 0.030以下 7.50~10.50 18.00~20.00 - - 0.15~0.30 Nb 0.15以下

機械的特性

材料記号 耐力
N/mm2
引張強さ
N/mm2
伸び(%) 硬さ
HBW HRBS又はHRBW HV
SUS304N2 345以上 690以上 35以上 248以下 100以下 260以下


SUS316の特性と主な用途
18Cr-12Ni-2.5Moの組成を持つ材料で、SUS304にモリブデンを加えることで、海水や各種媒質への耐食性を向上させたステンレス鋼材です。耐孔食材料として使われます。海水ポンプ、配管部材、船舶部品、バルブなどに用いられます。
 

化学成分
SUS316の成分、組成(単位:%)

材料記号 C Si Mn P S Ni Cr Mo Cu N その他
SUS316 0.08以下 1.00以下 2.00以下 0.045以下 0.030以下 10.00~14.00 16.00~18.00 2.00~3.00 - - -

機械的特性

材料記号 耐力
N/mm2
引張強さ
N/mm2
伸び(%) 硬さ
HBW HRBS又はHRBW HV
SUS316 205以上 520以上 40以上 187以下 90以下 200以下

 

SUS316Lの特性と主な用途
18Cr-12Ni-2.5Mo-低C型の材料で、SUS316の極低炭素鋼です。性質は、316の耐粒界腐食性を強化したものです。用途は同様に海水をはじめとする耐食性、耐孔食性が必要な場所で使われます。
 

化学成分
SUS316Lの成分、組成(単位:%)

材料記号 C Si Mn P S Ni Cr Mo Cu N その他
SUS316L 0.08以下 1.00以下 2.00以下 0.045以下 0.030以下 10.00~14.00 16.00~18.00 2.00~3.00 - - -

機械的特性

材料記号 耐力
N/mm2
引張強さ
N/mm2
伸び(%) 硬さ
HBW HRBS又はHRBW HV
SUS316L 175以上 480以上 40以上 187以下 90以下 200以下

 

SUSXM7の特性と主な用途
18Cr-9Ni-3.5Cuの組成を持つ材料で、SUS304にCuを添加して冷間加工性の向上をはかったタイプです。冷間圧造用の鋼材です。
 

化学成分
SUSXM7の成分、組成(単位:%)

材料記号 C Si Mn P S Ni Cr Mo Cu N その他
SUSXM7 0.08以下 1.00以下 2.00以下 0.045以下 0.030以下 8.50~10.50 17.00~19.00 - 3.00~4.00 - -

機械的特性

材料記号 耐力
N/mm2
引張強さ
N/mm2
伸び(%) 硬さ
HBW HRBS又はHRBW HV
SUSXM7 155以上 450以上 40以上 187以下 90以下 200以下

 

SUS430の特性と主な用途
クロムの組成比から18Crステンレス(18クロムステンレス)とも呼ばれます。耐食性に優れた汎用のステンレス鋼材です。建築内装用、家庭用器具、家電部品、厨房機器などに使われます。磁性があります。ただ他の鋼種に比べるとやや耐食性、加工性には劣る部分があります。13クロムステンレスに比べると、耐食性、耐熱性には優れています。
 

化学成分
SUS430の成分、組成(単位:%)

材料記号 C Si Mn P S Cr Mo N その他
SUS430 0.12以下 0.75以下 1.00以下 0.040以下 0.030以下 16.00~18.00 - - -

機械的特性

ステンレス鋼材の種類 耐力
N/mm2
引張強さ
N/mm2
伸び
%
硬さ 曲げ性
HBW HRBS又はHRBW HV 曲げ角度 内側半径
SUS430 205以上 205以上 22以上 183以下 88以下 200以下 180° 厚さの1.0倍

 

SUS410の特性と主な用途
その組成から13Crステンレス(もしくは13クロムステンレス)とも言われます。良好な耐食性、機械加工性を持つ鋼種です。刃物など、一般用途にも使われます。
 

化学成分
SUS410の成分、組成(単位:%)

ステンレス鋼材の種類 C Si Mn P S Cr
SUS410 0.15以下 0.50以下 1.00以下 0.040以下 0.030以下 11.50~13.00

Niは、0.60%以下ならば含有してもよいとされます。
 

機械的特性

ステンレス鋼材の種類 耐力
N/mm2
引張強さ
N/mm2
伸び
%
硬さ 曲げ性
HBW HRBS又はHRBW HV 曲げ角度 内側半径
SUS410 205以上 440以上 20以上 201以下 93以下 210以下 180° 厚さの1.0倍